〔序章〕


 みんな、すごくいじわるだ。あのながい、きのいすは、もうずっとまえからねこさんがねているのに。そのうえに、かばんやおすなばどうぐをおいたりしている。かわいそうだ、ねこさん。
「おまえ、なんでないてんだよ」
 ゆうきくんだ。ぼくはちょっとだけゆうきくんがこわい。だってゆうきくんは、すぐにおともだちをたたくから。だけど、だれかのおもちゃをとったり、すべりだいのじゅんばんをまもらなかったりするわるいおともだちしかたたかないんだ。でもやっぱりたたくのはよくない。せんせいだって、そういってる。
「なあ、だれかがいじめたのか?」
 ぼくがだまっていたら、ゆうきくんがまたそういった。ちょっとやさしい、いいかただった。ぼくはなんでないてるか、おしえてもいいとおもった。
「あのいすに、ねこさんがいるんだ。ずっとあそこでねてるのに、みんなが、かばんとかおいてかわいそうなんだ」
「ねこなんて、いないじゃん」
「いるよ、ぼくにはみえるもん」
 ゆうきくんは、ちょっとへんなかおをした。やっぱり、いわなきゃよかった。
「わかった」
 あれっ? とおもったら、ゆうきくんはいすにはしっていって、うえにあったかばんを、ぜんぶしたにおとしてしまった。
「こらぁ、優樹君! 何やってるの? いけないでしょう、お友達の鞄をそんなふうに投げちゃ」
 せんせいがすぐにはしってきた。ゆうきくんがせんせいのことを こわいめでみてるから、ぼくはすごくどきどきした。
「ここに、ねこがいる」
「猫なんかいないわよ?」
「いまはいないけど、もどってくるんだ」
 せんせいは、こまったかおをしている。
「そう、じゃあ猫さんの場所を少し空けておいてあげましょうね」
 それからゆうきくんとふたりでかばんをひろって、いすのすみにかさねておいてくれた。
「投げたらだめよ」
 せんせいがいっちゃうと、ゆうきくんがぼくのほうをみた。ぼくはまた、こわくなってにげだしたくなった。だけど、ゆうきくんはぼくにむかってにっこりわらったんだ。
 ぼくはとても、うれしくなった。